ブランド・マネージャー認定協会 BRAND MANAGEMENT AWARD

REPORT開催レポート

第7回公開シンポジウム

開催日
2018年11月17日(土)13:00‐17:30
場所
東京国際フォーラム

 一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会は、2017 年11 月18 日、東京国際フォーラムにて、第7 回公開シンポジウムを開催しました。約140 名の方に参加していただいた今回のシンポジウムでは、特別基調講演やブランディングコンテストで選ばれた実践事例の発表、トークセッションを行いました。

開会の挨拶

  最初に岩本俊幸代表理事が次のように挨拶しました。

「当協会はブランド・マネージャーを養成する専門機関として人材育成と啓蒙活動を行っています。『ブランドについて学ぶならここ』といわれるような認知度を高め、日本全国の卒業生によりコミュニティを形成し、学び、情報交換、企業間の連携など活発なコミュニケーションを行っていきたいと思います。当協会のブランディングの考え方や実践方法が、企業の商品・サービスの価値向上、従業員満足度の向上につながり、組織が内側から元気になって、健康的な企業文化をはぐぐむことを目指します。

当協会は一般財団法人となって丸7年、2日間の基本講座であるベーシックコース以上の受講者はのべ1600人を超えています。ブランディング入門セミナーも5年間で900名以上が受講、そのほか多数のイベント、セミナーを実施しています。シンポジウムは今年で7年目ですが、着実に参加者が増えており、今回は約140名にご参加いただいております。今年からはシンポジウムには中小企業庁のご後援を賜り、ブランディング事例コンテストでは中小企業庁長官交付による中小企業特別賞も設けております。今後も3級講座の開催など充実を図っていきたいと考えております」

 特別基調講演「こんなもの誰が買うの?」がブランドになる

 特別基調講演では当協会評議員を務める阪本啓一氏(株式会社JOYWOW代表取締役)が「『こんなもの誰が買うの?』がブランドになる」をテーマに講演しました。

阪本氏は「どんなものでもブランドになる」と話し、ハンコの役割を「義務」から「遊び」へとポジションチェンジをし、アニメキャラクターとのコラボレーションなどを行い、評判になったハンコ会社や、軍手を業務用からグッズにポジションチェンジし、音楽アーティストのグッズなどで展開して大ヒットした軍手メーカーなどの事例を紹介しました。

また、様々な事例を取り上げながら、得られた知見を以下のように紹介しました。

「面白い企画が8割、伝える手段が2割」(ツイッターで拡散し爆発的に売れたキャンドル工房の例から)

「異なるものをくっつけると売れる」(「うんこ漢字ドリル」の例から)

「興味を細分化(マイクロインタレスト化)することが重要」(「妖怪図鑑」などのヒット商品から)

「何をやりたいのか、何を提供できるのかを明確にしなければいけない時代」(猫の殺処分をなくすというミッションを掲げ、クラウドファンディングで資金を集めた猫カフェの例から)

「CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)からCS(Customer Selection:顧客選別)へ。プライシングは買う人を選ぶ意思表示である」(ダイソンの高価格なドライヤーの例から)

講演を通して、「ワクワク」を循環させることが重要であることを強調、ブランド・マネージャー認定協会や阪本氏自身が設立したビジネス交流会「まいどインターナショナル」のように、熱意のある個人を「エコシステム」の中に巻き込んでビジネス展開をしていくこと、さらにはお客様も「エコシステム」の中に入ってもらって、仲間が仲間を呼ぶような関係づくりをすることを説きました。

ブランディング事例コンテスト~受賞発表から事例紹介~

今年で3回目となるブランディング事例コンテストでは、当協会で学んだことを現場で活用した事例を募集し、その中から構築プロセスと成果が優れた事例を表彰しています。

1次審査では書類選考、2次審査ではプレゼンテーション審査を行いました。その結果、2017年は以下の企業に各賞が贈られました。

・大賞・中小企業特別賞:株式会社石井事務機センター

(ブランド・マネージャー:株式会社ファーストデコ扇野睦巳)

・準大賞:佐々木慎太郎行政書士事務所

(ブランド・マネージャー:コアラス野村佳生)

・優秀賞:別所温泉中松屋旅館

(ブランド・マネージャー:株式会社ウェブエイト伏見由紀)

・優秀賞:家づくり工房ちゅうぶ

(ブランド・マネージャー:株式会社ウェブエイト今関尚子)


準大賞佐々木慎太郎行政書士事務所のブランディング

佐々木慎太郎行政事務所のブランディングを行ったコアラスの野村佳生氏が発表を行いました。要旨は次のとおりです。

クライアントの佐々木慎太郎氏は2014年に行政書士試験に合格・開業したものの売上が芳しくなく、Webで集客しようとWeb制作の依頼についてコアラスに相談しました。しかし制作にあたって自分の強み、競合との違いなどが明確に打ち出せず、それならばブランディングから行おうという話になりました。

ブランド・マネージャー認定協会の8つのステップを活用しました。その中で、自社の強みで、顧客にメリットをもたらすものとして「行政書士の仕事を途中でやめたりは決してしない」という覚悟を見出し、「建設・産廃業の将来35年を支えます」というブランドアイデンティティにつなげました。また市場分析、PEST分析などで「ドローンの飛行許可承認申請と特殊車両通行許可申請」を強みとし、名刺にドローンを掲載するなどのツール展開を行いました。仕組みづくりとして一般社団法人宮城ドローン研究会を設立、ドローンに触れてもらう機会を増やし、業務範囲が拡大しました。2015年の売上は200万円弱でしたが、2017年には約1200万円にまで伸びました。

また佐々木慎太郎氏も登壇し「自分の得意分野に絞った結果、口下手な自分も、人と話すときに話が膨らむようになりました。自信がついたという意味では、1000倍もの効果があり、売上としては6倍以上もの効果があったと思います」と話しました。


大賞&中小企業特別賞株式会社石井事務機センターのブランディング

株式会社石井事務機センターのブランディングを行った、ファーストデコの扇野睦巳氏が以下のような発表を行いました。

石井事務機センターは文具の大型量販店やアスクル、アマゾンの台頭で価格競争に陥っていました。女性社員の休職問題をきっかけに、まずは自社を笑顔で働ける会社にしたいという思いから「『働く』に笑顔を!」という経営理念を策定、まずはインターナルブランディングを行いました。PEST分析で働き方改革やICTの推進などを洗い出し、3C分析で岡山県5000社の顧客先があるという強みを見出し、セグメンテーション・ターゲティングでICTリテラシーに興味があるけれども知識のない30人以下の中小企業を対象とすることに決めました。

またペルソナ設定で石井社長のような、社員を大切にしたい中小企業経営者をペルソナとし、ポジショニングの分析で自社変革とライブオフィスがある企業にポジショニングすることとしました。そして事業ドメインを「笑顔あふれるワークスタイル創造提案業」に、ブランドアイデンティティを「笑顔あふれる働き方で日本中の中小企業の問題を解決する会社」にしました。

自社オフィスを赤色基調のショールームにして来社体験型とする、自社のオフィス改革の成功体験を商品化する、PCのセッティングからオフィスのイノベーションまでオールインワンパッケージで提案するなど変革を行いました。これらの変革は新聞、テレビ、情報誌などで取り上げられプロモーションに寄与しました。採用ブランディングにおいても就職希望先ランキングで上位に食い込むなど効果を上げています。社員満足度や業績も向上しました。

トークセッション第1部「受賞者と発表事例に関するディスカッション」

ファシリテーター:岩本俊幸(当協会代表理事)

トークセッション第1部では、審査員や受賞者の方による発表事例に関するディスカッションを行いました。各氏の発言の大要は以下の通りです。


田中洋氏(当協会顧問、中央大学大学院戦略経営研究科教授)

ブランディング事例コンテストは日本の中小企業を元気にする意義のあるコンテストです。「情熱」を持っている人は、持っていない人よりも、見えているものがあると思います。組織を変えるには情熱を持ったリーダーが必要です。

佐々木研一氏(当協会理事、株式会社イノベーションゲート解析研究員)

ブランド・マネージャーと対象の企業の経営者・社員がチームになって、楽しそうにブランディング活動を行っているなと感じました。ブランド・マネージャーが対象の経営者に根気強くコーチし、強みを引き出し、自信を持たせています。

扇野睦巳氏(株式会社ファーストデコ)

事例発表の中で紹介した、小さな組織を作って変革し、うまくいったら組織全体の中に入れて、組織全体を変えていくという手法は、大企業のSAPでも導入している手法であり、7万人の企業でも20人の企業でも有効であると思います。石井事務機センターでは1年でそれができましたが、石井社長のリーダーシップがあってこそだと思います。

ポジショニングマップの軸の作り方については、石井社長がすでに「ライブオフィスを作りたい」という思いがあって、それをポジショニングマップで可視化しました。可視化することで、競合他社にはない独自性が見えてきました。

「縁」「恩」「運」といった見えないアートな部分が重要で、ブランディングを行う過程で、良いお客様、良い社員、良い取引先に恵まれるようになったと思います。

石井聖博氏(株式会社石井事務機センター代表取締役社長)

「情熱」という観点でいえば、経営者である私が100であるとすると、経営幹部は90、一般社員は80くらいだと思います。情熱のある経営者が、周りを巻き込んで組織を変えることが重要です。そのためには小さな組織から始めることが大事ですが、その人選がとても大切になります。情熱と、整合性のある戦略の両方が必要だと考えます。

野村佳生氏(コアラス)

クライアントの佐々木先生は、マーケティングという言葉もよくご存じないという段階からスタートしましたので、最初は3C分析やPEST分析の枠にはめ込んでもらうのではなく、会話の中から私が情報整理しました。3カ月くらい経って、佐々木先生が自分の強みなどについて固まってきた時点で、資料をお見せしたというステップを踏んでいます。クレドに「30人リスト」という項目を盛り込んで、30人の人との関係づくりを勧めました。ブランディングの過程で、佐々木先生は外見も内面も変わっていって、見るからに明るくなって、クライアントとの名刺交換の際にも話すことが多くなって、人を引き寄せる魅力を持たれたと思います。

小池玲子氏(当協会評議員、クリエイティブハウスR-3代表)

客観的な論理や知識を蓄えた後で、ブランドのビジョンを構築するときに「発想のジャンプ」が必要であると思います。その点で石井事務機センターは「モノ売りからコト売りへ」、佐々木慎太郎事務所は「覚悟の見える化」と、発想のジャンプが見えました。

北原友氏(株式会社イマージ、前回の大賞を受賞)

昨年大賞をいただいた事例の墓石店「石栁北原」様は、今年も売り上げは1.5倍になり、テレビの取材なども複数ありました。ペルソナは親を急に亡くされた方と設定しましたが、生前に自分の墓を買われる方も増えています。会長の奥様も様々なアイデアを考えられていて、顧客の立場で考えられていると思いました。家族のみなさんがとても明るくなられて、お手伝いできてよかったなと感じています。

トークセッション第2部「ブランド・カンパニーになるための土壌づくり」

ファシリテーター:水野与志朗(当協会理事)

トークセッション第2部では「ブランド・カンパニーになるための土壌づくり」をテーマに各氏に発言していただきました。

徐誠敏氏(当協会アドバイザー、名古屋経済大学経営学部准教授)

ブランドとイノベーションを組み合わせることによって、市場環境にフィットし、信頼関係を築く、強い企業になります。クローズドイノベーションではなく、様々なステークホルダーの知識を結びつけるオープンイノベーションが大切です。

赤城乳業の井上社長は、若い社員に失敗を恐れずにやれと指示しており、「ガリガリ君ナポリタン」などの大失敗作があっても、平気な顔をしていました。企業規模は問わず、遊び心を持ったブランドづくり、ものづくりが重要ではないでしょうか。

今回テーマに出てきた、小さな組織を作って、企業全体の活性化を促すこと、「発想のジャンプ」も会社を変えることにおいて必要です。ブランドネームなど国によって変えなければいけないものもありますが、目に見えない創業精神、組織文化などは変えてはいけないものだと思います。

榛沢明浩氏(当協会評議員)

コモディティ製品を扱っている企業のブランディングは簡単ではありません。高く売れるチャネルを選ぶと、今度はマーケットが小さくなるというジレンマに陥ります。

ブランドというとコンシューマーにとっては一個のグッズを指したり、企業にとっては宣伝をやりましょうということになりかねません。

コンシューマーグッズにおいては、マスメディアに商品名を連呼してもらって一定の認知度を得る手法とは別に、コンシューマーの共感を得る、コンシューマーからアクションを起こしてもらう手法に変わってきています。

阪本啓一氏(当協会評議員、株式会社JOYWOW代表取締役)

ブランドづくりは、もっと地味な、泥臭いものだと思います。例えば工場のパートさんと一緒に営業に回るといったことも、ブランドづくりになると思います。

ブランド戦略を上長に説得するのに「時短(時間短縮)につながりますよ」と言うのはとても説得力があります。営業に行かずともお客さんが来てくれることは時短につながります。そして「再現性がある」、つまり誰が営業しても同じ効果が得られるということは、経営者の心に響きます。

ビジョン、世界観、創業精神などは逆風にこそ効果を発揮します。金融機関の融資も、今までは担保主義でしたが、これからは(創業精神などの)哲学が重要視されてきます。

これからは「自己実現消費」がキーワードです。モノの移動を伴う商品はアマゾンに任せて、自己実現の欲求を満たすことをやっていくといいでしょう。

田中洋氏(当協会顧問、中央大学大学院戦略経営研究科教授)

ブランド戦略を考える上で手がかりとなるのは、ブランドに込められた最初の思いをたどることです。例えばエナジードリンクのレッドブルは、オーストリア人の創業者が日本の長者番付を見て、自動車メーカーでも電機メーカーでもなく大正製薬という製薬会社が1位になっているのに驚き、調べてみると「リポビタンD」というエナジードリンクが売り上げを挙げていることがわかり、レッドブルを開発したという経緯があります。最初のインスピレーションが、後々のブランド戦略においても重要になります。

ブランド戦略と聞くと、広告のことであるといった誤解を受けることがあります。各大学の講義などでも「ブランド」の概念はばらばらです。ブランドという言葉を使わずに活動することも考える必要があるでしょう。

トランプという人物は不動産業で自らをブランド化し、トランプが所有していなくても「トランプタワー」と呼んでいる建物もあります。

閉会の挨拶

最後に田中洋顧問から次のような閉会の挨拶がありました。

「阪本さんから『ブランドはマーケティングを無用にする』という言葉がありました。これはドラッカーが言った『マーケティングがセールスを不要とする』という言葉をアレンジしたものだと思うのですが、そのあとのお話にもつながる部分があり大変面白いなと思いました。佐々木慎太郎事務所や石井事務機センターの事例も、明確なブランドを掲げることによって自分でマーケティングしなくても、クライアントが集まってきてくれる、相談してくれるという証左だったように思います。次回以降も、刺激のあるシンポジウムにしていきたいと思いますので、ぜひ皆さんご支持、ご賛同いただけましたら幸いです」

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